2019年1月24日(木)、株式会社MOTTO佐藤氏と弊社・アディッシュ株式会社による「スマホゲームにおけるマーケティング戦略最前線」セミナーを開催しました。今回、その報告をしたいと思います。

本セミナーは「スマホゲームにおける最新マーケティング手法」と「スマホゲームにおけるソーシャルメディアの徹底活用」について二つの講演とパネルディスカッション、懇親会の構成で行われました。コミュニティ戦略に注目が集まるいま、スマホゲームに求められているマーケティングとは何なのか。また、SNSを最大限に活用するために何をすべきか。ヒットしたスマホゲームを事例として取り上げながらご紹介しました。

当日の会場は永田町のイベントスペースGRiD(ガイアックス社運営)。おしゃれな内観とどこからでもスクリーンがしっかり見える席配置で、周囲を気にせずくつろいで聴講できました。参加者は40名ほどで、スマホゲームを運営している方と、広告等で支援する立場の方とが半数ずつとのこと。みなさん終始集中してメモをとる姿が印象的でした。ゲームのマーケティング担当・プロデューサーのなかでSNS運用の必要性、効果的な運用のあり方について関心が高まっていることを感じます。

第一部「スマホゲームにおける最新マーケティング手法」

株式会社MOTTO 代表取締役 佐藤 基 氏
株式会社MOTTO 代表取締役 佐藤 基 氏

最初の登壇者は、2011年からスマホゲームのマーケティングに携わり、その功績と経験をもとにスマホゲームマーケターの支援に尽力されているMOTTO佐藤氏です。「スマホゲームにおける最新マーケティング手法〜今、ヒットタイトルに求められることの考察」と題し、現在の国内スマホゲームの市場環境とヒットタイトルの傾向、今後のスマホゲームに求められることについて豊富な事例とともにお話いただきました。

前半のテーマは現在までの国内のスマホゲームの全体的な傾向についてです。スマホゲームのセールスランキングを見ると、上位をロングセラータイトルが占めています。そのことから新作タイトルをヒットさせる難しさや、ロングセラーのタイトルを作る重要性が高まっていることが窺い知れます。そして、そのような状況下でもヒットしている2017年、2018年発表の新作タイトルに絞ると、ほとんどがIP(※1)タイトルと海外デベロッパーのゲームで、国産のオリジナルタイトルはとても少ないことがわかります。そして、これらはおしなべてストアレビューが非常に高いというのも共通の傾向です。
※1 IP:Intellectual Propertyの略。ゲームやアニメのタイトルやキャラクターなどの知的財産を指す。

なぜこれらのゲームが強いのか。後半では近年ヒットしているゲームのマーケティング戦略から、今後スマホゲームのマーケティングに何が求められるのかを考察しました。
佐藤氏によれば、人気ゲームのマーケティング戦略は大きく4パターンに分類されます。

  1. IPファンターゲテッドマーケティング
    ファンへ効率的にアプローチ。期待にこたえるゲーム作りと運用でユーザーを定着させる。
  2. ブロックバスター・メディアミックスマーケティング
    リリース前から大規模なマーケティングでリリースの初動を作り、流行感で立ち上げる。
  3. スーパーデジタルマーケティング(High LTV)
    デジタルマーケティングを大量に出稿して、質の良いユーザーを獲得し続ける。
  4. コミュニティマーケティング
    熱量の高いユーザーとの関係構築に集中。LTVを高め、他のユーザーへ伝播させていく。

さらに佐藤氏は、この4つの効果的なマーケティング戦略から、ヒットするスマホゲームのマーケティングに求められる要素を以下のようにまとめました。

スマホゲームのマーケティングに求められる要素

ここで2018年にヒットした代表的なゲーム『荒野行動』のマーケティング施策を取り上げ、それぞれの施策が持つ意味や効果を紐解いていきます。

  • いち早くスマホ版PUBG(※2)を開発し、スマホ版PUBGとして訴求することでIPとも言える立ち位置を確保している。(ゲームの品質/完成度・IP)
  • 初期プロモーションを相性の良いYouTuberに特化した。さらに公認YouTuberの育成プロジェクトによりタイアップではないオーガニックYouTuberも拡大し、YouTubeでの動画再生数でスマホゲーム国内1位を獲得している。(流行感・口コミ・スーパーデジタルマーケティング)
  • 複数のSNSを使い分けつつオフライン活動でもユーザーとの接触機会を増やし、コミュニティ施策に注力している。(コミュニティ作り)
  • スマートフォン広告出稿量で国内第一位である。(スーパーデジタルマーケティング)

※2 PUBG:PLAYER UNKNOWN’S BATTLE GROUNDS(プレイヤーアンノウンズ バトルグラウンズ)の略。最大100人のプレイヤーが無人島で生き残りをかけて戦うバトルロワイヤルゲーム。ピーユービージー、パブジー、プブグなどと称される。

このように整理してみれば、ヒットするマーケティング要素を全て兼ね備えた『荒野行動』の成功は当然だと頷けます。
新しくロングセラータイトルを生むためには、オーガニック力、つまりゲームの魅力がさらに重要になります。さらにユーザーの高評価・満足を得るためにどのようなマーケティング戦略を重要視すべきか、自分たちのゲームに必要な取り組みが何か判断できることがマーケティング担当者に求められているとまとめ、次の講演へつなぎました。

第二部「スマホゲームにおけるソーシャルメディアの徹底活用」

アディッシュ株式会社 ソーシャルメディアマーケティング フェロー  武内 一矢
アディッシュ株式会社 ソーシャルメディアマーケティング フェロー  武内 一矢

第二部の講演者は、ソーシャルメディアの勃興期からマーケティングに携わり、アプリゲームのユーザー向けコミュニティマネージメントにも知見の深い、弊社マーケティングフェローの武内です。「スマホゲームにおけるソーシャルメディアの徹底活用」と題し、スマホゲームにおけるSNS成功事例の基礎理解、そして自社タイトルのSNS適性度検証方法についてお話させていただきました。

いま、コミュニティ運営やSNSの活用に力を入れたいというスマホゲームの運用企業が増えていますが、ユーザーニーズを無視した他社の模倣や、手法ありきで始めることで失敗してしまうケースも少なくありません。

まず、武内はコミュニティ運営が成功している状態を以下のように定義しました。

  • 多くのユーザーと
  • 良好な関係を
  • 持ち続け
  • 積極的にゲームに関わってもらう(状態)

コミュニティ運営、SNSの活用を通じてこれらを達成することが、結果的に売上貢献へと繋がります。そして、その具体的なパターンは以下の4つに分類されます。

コミュニティ運営をSNS活用を通じて達成すると売上貢献になる4つのパターン

目的によってSNSの運営スタイルやコミュニケーションのポイントは異なります。拡散目的のリツイートキャンペーンや、ユーザーからの投稿内容をゲームに組み込む関係深化目的のキャンペーンなど、いくつかのゲームアカウントをSNS運用事例として検証しました。なお上記スライドに該当するゲームやSNS上でアンケートを取る方法は、開発や運用効果把握に有用なのはもちろんのこと、ユーザーへ進捗のフィードバックを随時行うことで「やってくれてる」と言う印象を強くする効果もあるといいます。

しかし、スマホゲームのSNS運用は効果の把握が難しく、適切なリソース配分がされていないケースが多いのが実態です。そこで武内は、投資対効果をみる上で有効な分析指標について、前述の『成功している状態①〜④』のステップごとに、その意図や数字の取り方を含め丁寧に解説しました。SNS運用を進めるマーケティング担当者にとって押さえておくべき重要な参考指標といえるでしょう。

後半のテーマは自社タイトルのSNS適性度検証方法です。武内は、SNS運用効果の出やすいタイトル、出にくいタイトルがあるとし、大きく3つに分類して10のチェック項目を作成しました。

  1. ゲーム自体の規模がどうか
  2. SNSとの相性
  3. 体制面

SNS適性度検証方法

SNS運用の進め方に悩みがある方は、まずは目的軸を整理した上でSNS運用を検討することを忘れないでほしい、そして自分たちのゲームがSNSに向いているかの適性判断には上記10項目を参考にしていただけたらと述べ、講演を締めくくりました。

第三部 パネルディスカッション・懇親会

モデレーター:
   石川琢磨(アディッシュ株式会社 取締役 兼 事業戦略担当/カスタマーソリューション事業管掌)
パネラー:
   佐藤 基 氏(株式会社MOTTO 代表取締役) 
   武内 一矢(アディッシュ株式会社 ソーシャルメディアマーケティング フェロー)

佐藤 基 氏、武内、石川によるパネルディスカッションの様子

第三部は、アディッシュ株式会社取締役 兼 事業戦略担当/カスタマーソリューション事業管掌の石川琢磨をモデレーターに迎え、質疑応答を兼ねて約30分間のパネルディスカッションを行いました。質問も相次ぎ、参加された方の期待に応える充実の内容だったのではないかと感じます。その一部を以下にご紹介します。

Q1:
SNSでキャンペーン等を行った場合、もともとプレイ意向が高い人がSNSを見ているから課金率やRRが高いのか、はたまたSNSの成果によるものなのか。「鶏か卵か」の議論になった場合にどう考えれば良いでしょうか。

A1:
ある程度の仮説を持って比較検討する必要があります。具体的な方法の一つは、いくつかの期間でフォロワーと非フォロワーのRR率がどの程度変化したか比較する方法です。初期値と一定期間経過後の実際の数字を比較し、何もしなかった場合を仮定して差分をSNSの効果とみなします。他にもプレイ意向が高いと想定される課金ユーザのみを対象に、フォローの有無とRRの相関関係を分析する方法も有効と言えるでしょう。

Q2:
(講演内で取り上げられた『荒野行動』以外に)2018年の他の面白い例は?

A2:
SEGA社の『コトダマン』はコミュニティで伸びたと言われているゲームです。Twitterの公式アカウントは”運営会議”という独特のスタンスで、運用に工夫が凝らされています。投稿自体も面白い上に、ユーザーは自由に会話し開発に参加できるため、純粋に好きなファン化と当事者化と両方で成功している事例と言えるでしょう。

Q3:
組織化するとコストが気になりますが、最初から担当を置くべきでしょうか。

A3:
はい。ある程度の規模のゲームタイトルなら予算として十分見合うのではないでしょうか。やはり継続しないと意味がないので、担当者の単発のモチベーションではなく、チームをおいて必要なら外注してでもしっかり取り組むことをお勧めします。ユーザーもSNS慣れしているので、中途半端にはじめて途中から丁寧なフォローがなくなると「運営側がやる気なくしてる」などと言われかねません。講演でも触れた『逆転オセロニア』は、SNSの重要度を一度も変えることなく継続して成功した好例です。

Q4:
マーケターとしてプロダクトにいかに関わるべきか。開発サイドとどう組んでいくとゲームを発展させられるか、アドバイスをください。

A4:
やっぱりゲームは面白くないとユーザーの支持を得ることはできません。面白いかどうか、開発とマーケは役割分担して判断しなくてはいけないと思います。マーケターは市場を理解した客観的なスタンスを持ちつつも、ターゲットユーザーは何を喜ぶか、さまざまな要素で理解すべきです。「ユーザーはどう思うかな?」とプロダクト開発側から聞かれるくらい、ユーザー寄りの中間にいるのがベストじゃないでしょうか。その上で、有用な情報を的確なタイミングで開発へレポーティングできることも求められると考えます。

ほかにも広告予算の配分方法や、そのゲームがユーザーと関わるスタンスがSNS運用への投資にどう影響するか、といった現実的なテーマが取り上げられ、あっという間の30分間でした。
最後の懇親会は、遅い時間にも関わらず多くの方が参加されました。軽食をいただきながらの和やかな雰囲気で、質問や意見交換などリラックスして語り合う様子が印象的でした。

懇親会よりリラックスして語り合う様子

まとめ

成熟期を迎えた日本のスマホゲーム市場において、これまで以上にマーケティングの重要性が増しています。コミュニティ戦略に注目が集まるなかで、SNSとの向き合い方はマーケティング担当者にとって重要な課題の一つと言えるでしょう。実際、懇親会やアンケートでも「SNS活用の予算どりのために上申をどう進めるべきか」といった具体的な声が聞かれました。

しかし、流行りや手法ありきの取り組みでは長続きせず、明確な目的と戦略を実現するための戦術が必要です。最新事例をふんだんに取り上げた今回のセミナーは、コミュニティ運営、SNSの活用により何を得たいのかを整理する良い機会であったと感じました。

さいごに、印象的だったのが登壇されたお二人に共通の「数字が立つからコミュニティをやるのではない。エンタメの世界だからモチベーションはユーザーを喜ばせること。」という意見です。事業として継続する上では数字も重要ですが、ユーザーの思いを理解し、徹底的に寄り添う姿勢こそがマーケティングによる成功の第一歩と言えるでしょう。

アディッシュではゲームアプリ企業を中心としたさまざまな企業を対象に、ソーシャルメディアの戦略立案から運用までをサービスとして提供しています。お客様のマーケティング活動のパートナーとして、最新のマーケティングノウハウとリソースの両面でサポートできる点が特徴です。セミナーの内容についてさらに詳しく知りたいという方、また、今後の取り組みとして興味があるという方は、ぜひ一度お問い合わせをいただければ幸いです。

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なお、登壇されたお二人はスマホビジネスにおける多様な領域のスペシャリストが参加するマーケティングスタジオ「ONNE」において共に活動中です。現在「スマホゲーム業界マーケティングカオスマップ(β版)」を公開しており、積極的なフィードバックも受付中とのことですので、ご興味のある方はこちらのリンクからぜひご参照ください。


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